映像機器

4K HDR対応テレビを考える【2】現行モデル評価

前回は、HDR規格の話も交えながら主力液晶テレビの中でLGのOLEDに注目したい。という内容でした。今回は、そんなLGのOLEDはどんな評価を受けているのか、からご紹介したいと思います。

レビュアーの評価

前回ご紹介した高評価モデル「Z9D」「DX950」「Z20X」あたりは、酷評されることが少なく概ね評価論調が似ているのですが、LGのOLEDに対する世間の評価は非常に興味深いのです。

まず、雑誌HiViの「冬のベストバイ2016」ディスプレイ部門において、LGのOLEDは非常に高い評価を得ています。

http://www.stereosound.co.jp/bestbuy/cate01.html

まず、50~59型部門ではLGの55B6PとパナソニックのDX950が並んで1位。

東芝のZ20XやSONYのX9300Dは少し落ちる。という評価になっていますね。

60~69インチ部門ではZ9Dがダントツ。次いでやはりLGのE6PとパナソニックのDX950が出てきます。

総合すると、HiViの評価としては

Sランク Z9D

Aランク 6P(LG)、DX950

Bランク Z20X、X9300D

というグレード感になりますね。

続いて海外のレビューサイトを見てみましょう。

http://www.flatpanelshd.com/focus.php?subaction=showfull&id=1440156585

評価対象モデルが限られますが海外ではZ9DよりもLGのE6の方が高い評価となっています。そればかりか前世代のEG9600の評価も高いですね。輝度が結構低いモデルなんですが・・・。ちょっとLG贔屓なんでしょうか?

LG E6     総合86点/画質95点

SONY Z9D   総合78点/画質87点

パナ DX950  総合76点/画質86点

SONY X9300D 総合74点/画質78点

もう一つ別のレビューサイトも見てみましょう。

http://ca.rtings.com/tv/reviews

ここではDX950やZ9Dはありませんでしたが、X9300Dと比較する事で傾向判断が出来ると思います。

こうして見ると、LGのOLEDのどこが評価されているのかが分かってきます。絶対輝度よりも「コントラスト」を評価し、更に「ユニフォーミティ(均一性)」つまり輝度や色のムラなく表示できるかどうか、また「ローカルディミング」つまり明るいオブジェクトのまわりに光が漏れてぼやけないかどうか、など全体画質においてOLEDは非常に優秀だとされているのです。

液晶はバックライト型で、エッジ型より直下型の方がコントラストが優秀だとか、バックライトの分割数が多いからより正確に明暗を描き分けられるだとかで競い合っていますが、結局はバックライトで照らしているのですから、ピッタリオブジェクトの輪郭どおりに光を当てる事は出来ません。また、全ピクセル均一に光を当てる事も難しいでしょう。一方OLEDは自発光型ですので、複雑な機構や処理がなくても正確に映像を作り出せます。この辺りがOLEDが構造的に圧倒的に優位な点ですね。

そしてもう一つ、ピーク輝度の変化に注目したいです。例えば真っ暗な画面に白い光点を置いた時(星空の星など)、これは輝度最大まで上げようとしますのでB6Pなら800nit程度ですが、X9300Dだと1,000nit超えになります。当然ここの差はそれなりに出てくるでしょう。ただそれだけでなく、画面全体が真っ白だった場合B6Pは150nitくらいまで落とされますが、X9300Dは全白になっても500nitを保っていますね。これが実感としてどのくらいの影響があるか。が大事です。

店頭より家庭の方が照明は暗いので、店頭だと「鮮やかモード」で丁度良いのに、家庭だと眩しすぎる。となる事がありますよね。でも家庭で輝度を下げて表示させると、ユーザ自らテレビのポテンシャル最高輝度を捨てているようなものですから、明るさを下げずに暗部の沈み込みが深いOLEDは家庭では程良い。という可能性もあります。それでもB6Pの150nitは落としすぎじゃないでしょうか。最高輝度が800nit程しかないという事よりも、全白時に150nitまで落ちる。という事の方が問題としては大きい予感がします。この辺りは実際に家庭に置いて確かめたいですね。

逆に表の一番右端のX8500D(海外ではX850D)の輝度を見てください。白が2%でも100%でも輝度が変わりません。こうなってくると全白が眩しければ輝度を下げるしかなく、下げると小領域での白ピークも暗くなってしまう事になります。そういう意味では画面内の白量に合わせて輝度をコントロールしてくれるのは良い仕様と言えます(もちろんコンテンツ側でも調整されますが)

ちなみにLGのOLED 3モデルをごちゃ混ぜで触れてきましたが2016年モデルでは「B6P」「C6P」「E6P」の3種類があります。B6Pはスタンダードモデル。C6Pは曲面ディスプレイ&3D対応が追加されたモデル。E6Pはフラットディスプレイで3D対応、サウンド強化モデルです。厳密には映像処理チップなどに違いがあるとも言われますが、上記評価を見て頂いても画質にほとんど差はないと思われます。逆に、E6P/C6PよりB6Pの方が輝度が高いですがこれはB6Pだけ「3D非対応」だからだと考えられます。3Dを対応させる為のフィルタによって輝度が落ちてしまうので、3D対応していない(フィルタがない)B6Pが少し輝度が高くなっていると思われます。よって「輝度で選ぶならB6P」という事になります。(2017年発表された次期OLEDは軒並み3D非対応になりました。海外では物議を醸しているようですが、これは3D需要の問題よりもOLEDの輝度確保が理由かもしれません)

一方、日経トレンディでは、むしろLGのE6Pはその暗さや映像表現の弱さから一段レベルが低いと評していますね。この辺りを見るとOLEDという基礎画質の良さは認めつつも、何を重視するかで評価が分かれている印象です。

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO05144960S6A720C1000000?channel=DF260120166490

ネットで見かける評価

さて、ではネット上での一般ユーザの声はどうか、というとLGのOLEDは結構批判も大きいですね。ここが面白い。

まずOLEDのそもそものスペック弱点「ハイエンド液晶に比べて暗い」という指摘。これはさすがにどうしようもありません。その代り「黒の沈み込み方が凄い」というのも同時に評価されていますので、ここはどちらを重視するか。という点で一長一短と言えるでしょう。

そして次が重要です。LGのパネルは有機ELとしてもまだまだ不完全(LGのOLEDは白色発光にカラーフィルタを被せてRGB色を出す白蒸着方式で、輝度確保の為にカラーフィルタを通さないW(白)も4つ目に残したRGBWという方式です)で、且つ映像処理エンジンが酷いので実際に出てくる画が酷い。というのです。

特に顕著なのは次の3点です。

1.高輝度になるほど白飛びや色変化をする(WRGBの弊害)

2.低輝度部は確かに黒が沈むが、一定以下の黒階調が潰れてしまっている

3.色の再現性がおかしい

このような露骨な弱点指摘はZ9D、DX950、Z20Xなどではほとんど見かけません。もちろん比較すれば良い悪いという点はあるにせよ「明らかに品質が低い」として指摘されるのは、LGのOLEDが顕著です。にも拘わらず海外や雑誌では非常に高い評価を受けているというギャップが面白いですよね。

所有者と思われる方々の意見は結構分かれます。「画質は液晶より圧倒的に綺麗」「黒の階調は調整でなんとでもなる」という方もいますし、「やっぱり実際キャリブレートしてもおかしいものはおかしい」「黒潰れは調整で解消できない」という方もいます。実名比較でもZ20Xより上という人も下という人もいます。

特にLGの映像処理力がダメだ。と言われていて、素性の良い4K映像なんかは割と高画質に表示されますが、地デジのように映像補完が重要なコンテンツはダメダメになる。というんですね。

こんな尖ったテレビに興味が湧かない訳がありません。

また、ちょっと興味があるのはいわゆる「HDR」と「SDR」の比較です。こちらのサイトの例を見てみましょう(液晶での検証画像です)

http://jp.gamesindustry.biz/article/1611/16111101/

※gameindustry.bizより

上のSDRの方が一見明るく、下のHDRの方が暗く感じます。ですが良く見ると下のHDRの方が白飛びせず明るい部分はしっかり明るいのにその周りはグッと明るさを落としていてコントラストがしっかり出ています。これがHDRの特性だとすると、まさにOLEDの特徴と合致しますよね。むしろOLEDは元々HDR的な画作りに適していると言えます。

制作者が意図しないレベルでの黒潰れは行われるべきではありませんし、逆に意図しないレベルで光を浮かせて階調表示させればいいと言うものでもありません。例えばスマホやデジカメでのHDR撮影では、時に肉眼に近い画になりますが、時には明るいところも暗いところも中庸化されてリアリティのない合成写真になってしまう事もあります。最近では「肉眼では見えない暗部階調を出せるようになりました!」と謳っている記事も見かけますが、本来肉眼で見えない部分をわざわざ見えるように加工するのはリアリティに欠けると考える事も出来る訳です。

ただ、それを踏まえてもLGのOLEDは黒潰れが酷いというのが指摘されている点なのでしょうが、HDR効果とを組み合わせた時にどんな画になってくるのか興味がありますね。

各モデルの比較印象

正直、現在販売されているモデルで次に選ぶならDX950やZ20Xが妥当なんだろうな。と思ってました。でも、どうしても物欲がそこまで掻き立てられなかったのは、DX950やZ20Xは今使っているAX900の延長線上にしかならないかもと感じていたからです。(もちろんAX900はIPSパネルなので黒部分の階調は弱く、輝度でも負けていますので確実にステップアップにはなるのでしょうが)

そんな中でこれからハイエンド機として注目されるOLEDとして2016年モデルB6Pには強く惹かれました。ちなみに私は2つ前はプラズマを使っていましたので、黒の沈み方、色コントラストの高さなど、プラズマに近い画作りをOLEDに期待したいのもあります。

実際に「E6P」「Z9D」「DX950」「Z20X」の4台が同じソースで並んでいるという唯一の展示場所がアキバヨドバシにありましたので年末頃店頭比較してきました。

もちろん明るい照明下で、且つ細かく調整もできないのでざっくりとした感想にはなりますが「輝度」「色の濃さ」「黒レベル」の共通3項目をいじりながら比較してみました。

短時間ではあるものの見る限り、色バランスはZ9D、DX950の2つが優れていると感じました。好みの画質に変えていっても破綻なく映像を作っています。コントラストも、明るさも全ての調和が取れている印象でした。

それでも黒レベルと色コントラストではやはりE6Pが一番優れている印象です。E6Pと同じ画質にする為に他モデルで頑張ってもE6Pには追いつきませんでした。E6Pは黒潰れするという事ですが、液晶もE6Pに近づけようとすると結局黒潰れします。見方によっては「そこまでの黒を求めなければ階調表現が豊かになる」という事なので、単に暗部を黒浮きさせているだけ、と言えなくもありません。実際は「豊か」なんだと思いますけどね。デモコンテンツでは判断のしようがないので、海外サイトなどのキャリブレーション情報で確認するしかないですね。

そして、明るさの全体感という面では確かにE6Pは暗いです。画面全体も暗い、ピーク輝度も暗い、字幕も暗い、という3拍子。今度はE6Pを他の液晶に合わせる為調整しようとしましたが、あっという間に黒浮きしてしまうので、そちら方面に変にいじらない方が良さそうです。そういう懐の広さでは断然Z9D、DX950は優秀だと感じました。

Z20Xも頑張っていますが、Z9DやDX950に比べると少し落ちる気がします。特に少しいじると色の濃さが変なバランスになったり、コントラスト表現も一番甘い気がしました。あくまで気がしただけかもしれません。しっかり調整するといいでしょうね。でもZ9DやDX950より一回り安い(本来であればグレードが下)のモデルでありながら、この両機種と並んで比較されるZ20Xは凄いと思いました。コスパ抜群と言われる訳です。

パネルそのものの色は全て黒グレアで、映り込みも似たようなレベルです。黒を沈み込ませるためには多少軽減策を取ったとしてもどうしても映り込みは出てきます。白い蛍光灯の映り込みはパナソニック、SONY、東芝全て同様にそのまま白(強いて言えばやや青み掛かった)色なのに対し、LGだけが赤みが掛かったマゼンタ系でした。いずれのテレビも映り込み対策として少し部屋の照明を暗めにした方が良いでしょうね。

明るい部屋でもしっかり輝度を表現できるハイエンド液晶ですが、黒も大事にするために映り込みの大きいパネルになってしまい、映り込みを減らす為に部屋を暗めにすると、今度は高輝度が眩しくなりすぎるジレンマも気になります。それであれば光漏れや黒の沈みに強いOLEDを選択する方が映像満足度は高くなる可能性もあります。

ちなみにX9300Dはこれらの機種と比べるとパネルの黒さも足りず、黒表現に意識を向けるなら不利かなと感じました。でもその分映り込みは緩やかなので照明を明るめにする事で、結果バランスが取れるんじゃないでしょうか。X9300Dは価格も20万円を切って購入できますのでトータルで見た時の選択肢になると思います。また、東芝はZ700XはIPSでパネル自体がグレーですし、パナソニックもDX950以外のパネルは今一つでした。ただ、この辺りも価格バランスがいいですし、明るいリビングで家族で観る。という意味では映り込みが少ない分綺麗に見える気もします。

こう見ていくと、ハイエンドVAにだけ何となくジレンマを感じるのです。大雑把に区分すると下記のような特徴があると思います。

IPS液晶

かなり明るい部屋でも映り込みの心配が少ない。また色乗りが良いので明るい部屋でも色が薄くならない。視野角も広い。画質よりストレスなく観る事を優先。通常リビングで選ぶなら間違いなくIPSだと思います。

OLED

明るい部屋だと映り込みが気になります。部屋の照明を少し下げられるなら下げた方がいいです。幸い、部屋を暗めにして丁度良いくらいの最高輝度性能で、且つ十分なコントラスト、黒の沈み込みがあり、光漏れもしません。視野角も広いので家族で映画を観るといったシーンにも最適ですね。
ハイエンド(高輝度)VA液晶

明るい部屋だと映り込みが気になります。でも部屋の照明を下げると今度はテレビが眩しくて輝度を下げたくなるかもしれません。輝度を落とすと当然コントラスト性が落ちますので悩ましいところ。また部屋を暗くすると直下型&ローカルディミングであっても光漏れも気になってきますので、液晶は本来部屋が明るめの方が適していると思います。「輝度」「映り込み」「コントラスト」「光漏れ」の網羅性はハイエンドVA液晶の抱えるジレンマだと思います。ハイエンド機ではこれらを高レベルでバランスを取ってオールマイティー性を追い掛けているんだと思います。ちなみに比較的視野角は狭いですが気にする程ではなく、これを理由にVAを選択肢から落とす必要はないと思います。

映り込みは気にならないと軽視される方もいるので主観的な部分ですが、私は結構映り込みの影響は大きいと感じています。例えば「黒い服を着た登場人物」について黒の深みとディティールを感じるには、パネルそのものの黒さ、映像表現としての黒レベルや階調表現、そして同じくらい映り込みも影響します。焦点の合わせ方で気になりづらくはなりますが、それでもノイズとして感じます。

OLEDの選択

一般的に地デジ放送の番組は明るい画面の番組が多いのでしっかり輝度を保ちつつ、暗部もノイズを抑えながら階調表現がしっかり出来るテレビの方が良いと思います。そうなるとやっぱり液晶が最有力になります。

一方、映画は比較的暗めのシーンが多く、黒の質感、コントラストやリアリティ表現が重要になってきます。OLEDが得意とするのはこちらですね。我が家では家族と地デジを観るのは基本的にダイニングにある別のテレビで、今回の検討は映画やゲームを中心とした趣味用のテレビなので「地デジ」の品質はほとんど問いません。

そして、2017年1月初旬に開催されたCESを中心に2017年モデルが発表されていますので、最後に2017年モデルをチェックしてみます。

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